「明暗」夏目漱石著と「続明暗」水村美苗著を読んで
「続明暗」を読むにあたって、漱石の「明暗」を読んだことがなかったので、まず漱石の「明暗」から読んでみた。夏目漱石は学生時代にいくつかの作品を読んだが、今となってはどの作品を読んだかははっきりしない。おそらく「坊ちゃん」あたりは読んであるとは思う。いずれにしても好きな作家であったことに間違いない。
この「明暗」は大正時代に書かれた漱石の未完の作品だそうである。ストーリーの展開がゆっくりしており、主人公の津田とその妻の延や妹の秀、吉川夫人や小林とのやりとりの中の心理描写が細かく描かれていた。私はその心理描写がとても面白く感じた。また、私が忘れかかっていた日本語が随所にちりばめられていた。「長火鉢」「宵闇」「ビー玉」「穀潰し」「手古盛り」(てんこもり)「鼠を弄ぶ猫」「迷児々々」「とば口」などがその一例である。そういえばこんな「日本語」を使っていたよな、という言葉がたくさん登場した。今ではそんなには使ってはいなくはなっているのだが。なにかとても残念な想いがした。
未完の「明暗」の後を書き継いだのが「続明暗」である。ゆっくりとしたストーリーが、時間の経過はさほどたっていないのに、水村さんの「続明暗」はストーリーの展開が急に早くなったような気がする。これはこれで面白く読ませていただいたが、もっと「明暗」のようにゆっくりとしたストーリーの展開のほうがより面白いのではないかと思った。また、作品中のきよ子の発した言葉の中に次のようなものがある。
貴方は最後の所で信用できないんですもの (p261)
だって、一体貴方に、何かを訊く気なんて実際におわりなの?此間からもう少し後にしよう、後にしようって、訊く事を先送りしてらっしゃるだけじゃない。貴方は正直に云って本当のことなんか何もお聞きになりたくはない、−というより、お訊きになる事が出来ないの。貴方って方はこんな所までいらしても・・・他人を・・・延子さんを裏切ってこんな所までいらしても、まだ真面目になれないんです (p264)
清子が津田のことを嫌になった理由を話している部分だが、「最後のところで信用できない」「先送りしてらっしゃる」とは耳の痛い言葉である。
水村美苗さんのおかげで久々に漱石を読んでみたわけだが、これからも漱石の作品は読み続けてみようと思う。
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