「ヒューマン2.0  web新時代の働き方(かもしれない)」渡辺千賀著を読んで

 以前から読もうと思っていた渡辺千賀さんの「ヒューマン2.0 web新時代の働き方」(かもしれない)」を読了した。この本は

1、異国の地で起こる変わった人たちのオトギバナシとして読む
2、日本での働き方・生き方の参考にする
3、モノは試しでシリコンバレーで働いてみるための参考にする  (p11)

という読み方があると作者の渡辺さんは述べている。私の年齢からすると、3は無理だし、エンジニアでもない。2の読み方を頭にいれてこの本を読んでみた。また、どちらかというと若者におすすめの本といえるかもしれない。
 この本の中で気になったところ、感想を書いてみようと思う。
 「3、インターネットで起こる変化」の中で渡辺さんは

「インターネット革命」がアメリカにもたらした大きな変化が、海外に仕事を移管する「オフシェアリング」。Eメールに加え、音声やビデオもインターネットでやりとりできるようになり、非常に安価に世界中と通信ができるようになった。その結果、今までは国内でしかできなかった仕事が海外へと移り始めたのである。  (p22)

と述べている。また、「『単に今までの仕事を海外に出す』のではなく、『まったく異なる発想で世界の頭脳を活用する』というオフシェアリングの仕方も誕生している」(p25)と違う「オフシェアリング」についても述べている。
 英語という言語がもたらすメリットがこういうところにもあらわれているのだ、と私は痛感した。日本では言葉の問題で、このような「オフシャリング」することはできない。単に海外に生産工場をつくり、日本より安い賃金で労働者を雇用し、コストダウンを図ることぐらいしかできないのである。
 また、3の中でITによる生産向上により、職を失ってしまう人が増加している(2006年に時点)、と渡辺さんは述べ

アメリカでは、「生産性が1%向上すると130万人の職がなくなる」と推定されている。  (p34)

ということを述べている。なにかアウトソーシングで職がなくなるような気がしたが、実は生産性の向上により職がなくなるほうがはるかに多いとは、私はこれを読んでとても驚いた。日本では同じことがいえないかもしれないが、事実生産性の向上はどこの企業も目指しているので、ゆくゆくはこのようなアメリカの数値に近づいていくのかもしれない。
 「4、シリコンバレーって何だ」の中で

シリコンバレーは、ストックオプッションという「魔法の杖」で、技術を突き詰めることでギークが大金持ちになる、という夢を実現したのである。(p46)

シリコンバレーの特色を説明し

大企業社員よりベンチャー社員が尊敬される
シリコンバレーの集まりで人気があるのは、
 1、アントレプレナー
 2、ベンチャーの社員
 3、大企業の社員
の順である。  (p52)

ベンチャー社員がシリコンバレーで尊敬されていることを述べ、ベンチャーの社員の人気がある理由として

最先端の仕事をしている  (p53)
エキサイティングな仕事をしている  (p54)
能力が高い  (p55)
金持ちまたは将来の金持ち候補  (p55)

ということをあげている。これでは尊敬されないはずがない。

シリコンバレーは、「大企業に勤めるオレサマをえらいと思わんやつは許せん」といった人にとっては、いたってつまらない場所なのであります。  (p56)

なんと風とおしのいい場所なのであろうか。また、シリコンバレーは「移民が多い場所」(p57)、「ノーベル賞受賞者が多い場所」(p60)という特徴も渡辺さんは述べている。世界の優秀な頭脳が集まっているということなのだろう。
 「5、人生と仕事」の中で

シリコンバレーは、世界に先駆けて、「人件費=変動費」を突き詰めている地なのである。  (p73)

と述べている。人件費は固定費というのが普通の考え方であるが、変動費と考えるところがすごい。メーカーが原料の仕入れを増やしたり、減らしたりするのと同じように、人も仕事の増加減少により、増やしたり減らしたりするということらしい。この当時(2006年)ではあまりピンとこなかったかもしれないが、世界同時恐慌といわれる現在では非常によく理解できることだ。シリコンバレーの「人件費=変動費」という考え方が、日本の企業でも世界同時恐慌ということにより発生してしまったのだから。(実質的には人員を削減しないと企業が倒産してしまう)
 「5」の中で「クビ」と「レイオフ」の違いを次のように述べている。

「クビ(fire)」と「レイオフ」は別物だ。会社の都合で数人〜数万人をまとめて解雇するのが「レイオフ」、個人の働きぶりが悪い際に個別解雇するのが「クビ」。  (p81)

 シリコンバレーでは結構頻繁に「レイオフ」が行われるらしい。ただ、働く側も自主的にどんどん仕事を移っていく人が多いそうだ。このへんは日本とは違うところだ。不況だからしようがないのかもしれないが。でも、好景気になっても仕事を移ることは難しいのだろう。
 「5」の中で「シリコンバレー株式会社」という表現を次のように使っている。

シリコンバレー株式会社
忠誠を誓うのは会社でなく地域  (p90)
職位のスタンダード化  (p91)
リファレンス命  (p93)
ネットワークは命  (p97)

面白い考え方であると思うし、これなら仕事を移ることが意図も簡単にできる。
 また、この章の最後に

シリアル・アントプレナーにせよ、どんな生き方をしようがご勝手に、というのがシリコンバレーの懐の深さなのである。  (p104)

と述べている。とてもいい雰囲気であると私は思う。
 「5、人生とお金」の中で

アントプレナーの野望は「世界を変える」こと。
「世界的な慈善活動を通じて社会を変える」というのが、富を得たスーパーリッチの次の野望の矛先だ。  (p126〜p127)

ということを述べている。日本の企業のみなさんとは違うところだ。
 「7、、シリコンバレーで誕生する4つの働き方:ヒューマン2.0」の中で、ここまでのおさらいとして次のように述べている。

1、ビジネスのアップダウンのサイクルが速くなり、競争が激しくなった結果、会社から個人にリスクが転嫁された。
2、会社都合、個人都合のいずれの理由にせよ、失業期間(離職期間)があるのは普通のこと。
3、働いている間の報酬は高い。
つまり、「会社には頼れないけど、働いている間は相当稼げる」ということなわけで、この結果シリコンバレーでは「会社に依存しない新しい働き方」が起こっている。  (p128)

 また、シリコンバレーでの働き方として

まず「フリーランス」。誰かに雇用されのではなく、何らかの専門性を持って個人で仕事を請ける人たちである。さらに、自分の好きな場所に住むことを重視する「ライフスタイルワーカー」、働く期間と休みを取る期間を分割する「チャンクワーカー」、そして、複数のタイプの仕事を掛け持ちする「ポートフォリオワーカー」。  (p129)

ということを紹介している。面白い働き方であると思うし、日本にもこういう働き方があってもいいんじゃないかと思った。
 「8、ヒューマン2.0のルール」の中で、仕事のルールとして

自分と異なる人を受け入れる  (p162)
大事な情報はソースに当たる  (p163)
オープンソースな人になる  (p164)
多くを期待される場に自分を置く  (p165)
英語を身につける  (165)

ということをあげている。また、転職のルールとして

理論上の「本当の自分」を探さない  (p166)
時にはあきらめる  (p167)
どれほどムカついても鉛筆をバキッと折らない  (p168)

といことをあげ、なるべく楽にやっていくためのルールとして

体力を身につける(または無駄なパワーを極力惜しむ ) (p169)
文句を言わない  (p170)

ということをあげている。また、人生のリスクを楽しむためのルールとして

ラッキーになる  (p173)
波にのる(おちょこちょいな人になる)  (p174)
直感を大事にする  (p175)

をあげ、サバイバルのルールとして

現実をありのままに認識する  (p176)

ということをあげている。シリコンバレーだけではなく、日本の社会の中でも参考になるルールであると思う。
 「9、最後の友達は家族」の中で

特に仕事のリスクが高く、ストレスの大きいシリコンバレーでは、家族がうまくいっているのは大事。戦う仕事人の「最後の砦」が家族なのである。(p187)

ということを述べているが、ここのことはまったく私は同感する。日本においても同じことが言えると思うし、とても大切なことである。

 この本はシリコンバレーの仕事と会社のことがよく書かれており、この本を読んで自分がシリコンバレーに合うと思ったら、ぜひ日本から若い人達がきてください、と主張いているような本であると思う。私はシリコンバレーには行けないが、日々の生活の中でこの本に書かれているようなことを頭の中にいれながら活動していこうと思う。また、今後は渡辺千賀さんのブログを読んでいこうと思う。