「へんな会社」のつくり方  近藤淳也著を読んで

 梅田望夫さんのウェブブック「生きるための水が湧くような思考」の中で、『「へんな会社」のつくり方近藤淳也著を紹介していたので、購入をして読んでみた。その感想を書いてみる。
 『PART1「情報を共有する」』の「2、私とあなたの情報を共有する」の中で、せめて嘘を言わないようにしたいものだ、と近藤さんは述べている。社員の人為的なミスをサーバーのハードディスクエラーのせいにしたりは、けしてしないように「はてな」ではしているそうだ。また、「問題を誠実に伝える人に」の中では

 待ち合わせに遅れた理由をきちんと説明できないような人や、すぐに嘘をついてしまうような人では、実際に仕事をする上でも適切な情報共有を行うのは難しいでしょう。(中略)問題に関する情報を嘘をつかずに誠実に伝え、その結果想定される批判やトラブルについては自分の責任の上で処理をすることを受け入れる、そいういことがいつでもできるようになりたいと思っています。  (p29)

 と述べている。偽装・隠蔽が多くはびこっている今の世の中で、こういう企業の姿勢は非常に大切なことであり、人間としてもとても大切なことであると思う。
 同じPART1の「3、社内で情報を共有する」の中の「会議の無駄をなくそう」の中で

 毎朝、開発陣によるミーティングをしているのですが、その会議は全員で立って行っています。立って話をするのにちょうど良い高さのテーブルを作り、その周りに集まって、
 ・出来事、スケジュールの確認
 ・発表、相談
 ・進行、確認
などを30分から1時間ほど話合っています。  (p34)

 と述べている。これは、「話し合いがダレてしまって長引かないようにするため」と「参加/不参加を柔軟に選択できるようにするため」にそうしているそうだ。とかく、つまらない長時間の会議が多い中で、この方法は画期的な会議だと思う。また、議題によって興味がなければ参加しなくてもよい、という方法には、私はとても驚かされた。非常に効率的な会議であると思う。
 『進行管理システム「あしか」』という方法を次のように紹介している。

 さまざまな業務をそれぞれ1枚のタスクカ−ドに書き込み、「ペンディング」「そのうちやる」「終わった」という4つの仕切りに振り分けて管理する仕組みです。  (p38)

 これは、非常に面白いと感じたので実践してみたいと思う。
 『PART2「仕事をする場所」』の「4、開発者が楽しく仕事できる環境」の中の「ペアプログラミング」の中で

 まずは「ペアプログラミング」。これは2人1組になってプログラムを開発するステイルで、(中略)2人でプログラム開発するというのは、1人がプログラムを書き、もう1人が横からそれを見ている、という方法です。1人がそれぞれの作業を行うよりも作業が2分の1になってしまいそうな気がするものですが、実際はそれぞれが別々の作業をするよりも効率があがる、という逆説的な現象が発生します。  (p41〜p42)

 と「ペアプログラミング」について述べている。また、1人ずつでやるよりも効率があがるか、という理由について

 1、ペアで作業を行うため、仕事以外のことは一切できない
 2、「これはあとからちゃんと作るから今は適当に作っておこう」という「とりあえず」なプログラムがができにくく、プログラムの品質が上がる
 3、作業者間のノウハウが共有され、スキル向上につながる 
   (p42)

 と述べている。この方法はとても面白い方法であると思う。近藤さんは常に「効率」ということを考えながら、日々仕事をしているのだろう。
 また、「遅くまで会社にいる人が偉い」みたいな風潮が定着してしまわないように気をつけながら、短期集中でメリハリつけて仕事ができる環境を作りたいと思っています」(p43)と述べているが、私はまったく同感であると考える。不景気による長時間労働をが続く今の日本企業には、特に見習ってほしいところであるとも思う。
 次の『毎朝好きな場所に座る「フリーアドレス」』の中で

 はてなでは、オフィスにフリーアドレス制を導入しています。フリーアドレスとは、社員の座席を固定せずに毎日好きな場所に座って仕事をするスタイルのことです。  (p43)

 と述べている。フリーアドレスの利点として、「コミュニケーションの相手が固定しない」、「オフィスが美しく保てる」、「毎朝「今日の仕事」を意識できる」といことがあるそうだ。本のタイトルどうり「はてな」という会社は「へんな会社」であると思う。それにしてもユニークであり、こんなことをやっている会社を日本全国探してもどこにもないと思う。
 「5、連続的な開発と非連続的な開発」の中の「開発が合宿と移動オフィス」の中で

 開発合宿は、5人ほどの開発者がインターネット環境のある高原のペンションなどに3日間ほど缶詰になって開発を行う、というものです。(p56)
 「移動オフィス」は、平日に普段のオフィスとは違う別の場所に集まって、黙々と作業をするという方法です。  (p57) 

 と述べている。そして、「開発合宿や移動オフィスをやってみて気付くのは、普段のオフィスではいかに割り込みが多く、業務の効率を下げているか、といことです」と述べ、「十分に生産的な仕事ができ、これまで行った合宿では常に新サービスが生まれたたり、既存サービスの大幅な拡張に成功あしてきました」とこの2つの方法の効率のよさを主張している。確かに普段のオフィスでは、どこの企業も割り込みが多い。その中で、合宿をしたりオフィスを移動してしまう、という発想とそれを実行してしまうというところ、そこが「はてな」という会社の柔軟なところであり、素晴らしいところであるのかもしれない。
 同じPART2の「6、いろいろな試み」の中の「他の会社とオフィスを交換する」の中で

 3人くらいの社員が朝から別の会社に出社し、その別の会社で1日仕事をします。相手の会社からも3人ほど社員を受け入れ、はてなの中で仕事をしてもらうのです。  (p63)

 と「交換オフィス」という方法を述べ

 いろいろな会社と出会って、いろいろとお互いの会社の良いところを真似したり、社員が「こんな会社で働きたい」と感じたことを叶えることができればいいなと考えています。  (p65)

 とその効果を述べている。社員を交換することなんて、まったくありえない話である。しかし、他の会社のいいところを自社で実現をするためにこの方法をとりいれているのだとしたら、それは価値のあることだと思う。
 「社員どうしでボーナスを計算する」の中で

 2005年冬のボーナス支給額を決めるために、少し変わった取り組みを行いました。ボーナスの業績連動部分について、社員の相互評価方法式を採用したのです。14人の社員が、それぞれ自分を含めた全社員を点数で評価し、その点数を集計して支給額を算出しました。  (p65)

 ということを述べ、また、その算出基準として

 「高い評価の人からの評価ほど意味がある」という重みをつけ加えました。つまり、評価の高い人の判断ほど価値が大きくなる」という重み付けを加えました。つまり、評価の高い人の判断ほど価値が大きくなるように計算したのです。  (p65)

 と述べている。これは、「交換オフィス」よりありえない話である。近藤淳也さんは、とても面白い男である。
 「ブログで人材採用」の中では

 インターネット企業に限らず、採用の際に自分のブログの提出が必要な企業がこれから増えてくるかもしれません。  (p68)

 と述べている。はてなでは「興味深いブログを書いている人」の採用率がとても高いそうである。こういう時代にこれからはなっていくかもしれない。
 「7、まっとうな意見が通る組織に」の中の「暑すぎる図書館」は非常に面白い。館内の温度が異常に暑く、利用者が空調温度設定を下げて欲しいとお願いをしているにも関わらず、「前例を作ると今後も温度を変更しないといけないから云々・・・」といって温度を下げてくれない、という近藤さんの体験談をもとにした話である。よくある「やりとり」であると思って、クスクス笑いながら読ませてもらった。
 また、次のように述べている。

 「ユーザーの声を聞く」ことを否定する理由は次第に薄れていくでしょう。多くの企業や組織が、IT技術を駆使しながら、利用者や他のステークホルダーと積極的に対話していくような社会になっていきます。
 その時に向けて、「まっとうな意見が通る組織」を作ることが、より重要になるのではないでしょうか。  (p75)

 まったくその通りであると思う。
 「PART03 ユーザーとともに」の中の「9、ユーザーとともにサービスを開発する」の中の「不具合の有無よりも重要なこと」の中で

 「不具合をゼロにする」ことと同時に、「不具合対処のプロセスをオープンにする」ことの重要性が増しているのです。  (p91)

 と述べている。このことは企業として大切なことであり、重要でもあると思う。
 「11、ユーザーの要望を知る」の中の「プロセスを公開する」の中で

 2005年6月下旬、社内でアイデアについて検討するミーティング(はてアイデアミーティング)を録音し、MP3ファイルでインターネット上に公開しはじめました。  (p109)

 と述べている。またまた、びっくり、社内会議をネット上に公開するなんて。しかし、近藤さんは公開することを自然なことである、無駄なユーザーの誤解無くなった、と言っている。ユーザーのことを常に考えていろいろなことを行っているのであろう。
 また、「社内ミーティングにユーザーが参加する」の中で

 その手段がどいうものであれ、こうした流れはとまることなく、10年もすれば「ユーザーからの意見が隠蔽されて、会議の内容も聞けないような会社なんて信用できない」といった社会になっているかもしれません。  (p112)

 と述べている。少なからずそういう方向に社会全体が進んでいくように私も思う。
 「12、名誉毀損・プライバシー侵害」の中の「匿名でいられる権利」の中で

 自分たちの頭は万能ではないことを、いつも忘れずにいたいものです。  (p124)

 と述べている。「自分たちの頭は万能ではない」という言葉はとても重みのある言葉であると思う。ユーザーからの意見に耳を傾けられないような企業は、ますます存続が難しくなっていくことだろう。
 「13、世界中の意識をつなげるインターネット」の中の「常識を捨てて」の中で

 子どものようなこころを持った人たちがこれからもどんどん登場して、まだまだ世の中は変わっていくでしょう。そんな変化の中で、自分たちも「はてな」というサービスでそうした場を提供していきます。大きな社会の変化に加わり、あわよくばその変化の原動力に加われるよう、これからも前に進んで行きたいと思います。  (p129)

 と述べている。これからも前に進んでいく近藤淳也さんを見ていきたいと思います。  (p129)
 「PART04 はてなの周縁から」の「近藤淳也インタビュー」の中の「はてなブックマークの大きな収穫」の中で

 逆に「こういうことは書くな」というルールを作るという発想はないわけですね。 (松永)

 だってそれは規定しちゃいますから、何に使えっていうことを。そいういことはなるべく使うひとが考えてほしい。
 はてなブックマークはべつにそのままでいいと思っている人はたぶん99%くらいいると思うんですね。その残り1%の人のために「ええっ、なんでそんな細かい指示をされなくっちゃいけないんだ?」っていうルールを作るのは、もうちょっと様子見ないとなって感じします。(近藤)
 (p148)

 と述べている。私も同感である。
 また、同じインタビューの『はてなは「ものづくり」企業だ』の中で

 日本国内ではシリコンバレーになれる土地って、京都だけじゃないですか。僕はそう思っているんです。  (p162)

 と述べている。京都がそうなっていくのか、興味を持ってみていきたいとと思う。現在拠点を近藤さんが京都に置いているのも、こういったところからなのかもしれない。
 また、次のように述べている。

 本人がもうかるかどうかじゃなくって、社会に対してプラスを提供したのとマイナスを取った差が利益だと思うんですよ。それが会社の存在価値で、その最大化をやるべきであって、手元のキャッシュを最大化したって、別に100年後に何の評価もされないですよね。で、マイナスは何だって思うと、今は電気。  (p170)

 と述べている。「はてな」としてバカみたいに電気を使っていることに罪悪感があり、電気を自力調達したいと言っているところでの一節である。環境も視野にいれての主張である。「社会に対してのプラス」とは、なかなか凡人だは言えないことであると思う。
 「おわりに  18歳の自分に向けて」の中で

 何かが楽しくないからといって、それを人のせいにするのは絶対にやめましょう。自分がもっと楽しくする努力を怠っているだけのことです。本当にやる気になれば、きっと自分でも物事を変えられるはずです。少なくとも確かなことは、何かを試してみなければ決して変わることはないということです。
 どうすればもっと良くなるかを考える。良いと思ったら試してみる。この本に書いたことは、全部そうやって生まれてきました。たったそれだけのことです。あなたも絶対に出来るはずです。

 と述べいる。とてもすてきな考え方であると思う。
 「近藤淳也のハイリスクで魅力的な二面性」(梅田望夫)の中で梅田さんは

 近藤のアイデアや提案の(a)まずは「えっ」と絶句し、(b)それからおもむろに自分の過去の経験に根ざす違和感を振り捨てて頭をまっさらにし、(c)改めて近藤の発想の源をたずねてじっくり考える、(d)その上で賛成したり反対したりする、という思考プロセスが習い性になった。それでわかったのは、口で言うだけなら簡単な「常識にとらわれない発想」を本当に貫くと、なるほどこうなるかということだった。  (p179)

 と述べている。梅田さんを絶句させてしまう近藤さんはとても凄い人物であると思う。
 この著書を読んでいて感じたことは、とても読みやすく頭の中がスッキリし、脳が柔らかくなるような感覚になるということだ。これは、梅田さんの著書を読んでいる時に感じるものと共通している。また、近藤淳也という人物は日本に昔からある良いところを持っていると思う。「嘘をつかない」「電気をバカみたく使っていることへの罪悪感がある」というようなところにもそういうところがでていると思う。今後も「はてな」という会社、近藤淳也という人物を注意してみていこうと思う。