『ウェブで学ぶ』梅田望夫/飯吉透著を読んで

 久しぶりに梅田望夫さんの著書が刊行されたので読んで印象に残ったところを記してみる。

先進国では、ウェブ世界に比べリアルな世界のほうが圧倒的にお金が流れているので、「職を得る、生計を立てる」主体はリアル世界となり、ウェブ上で良質な「人のつながり」は、主にリアル世界での職や仕事につながる基点となります。ウェブ上の人的なネットワークを基点に、リアル世界で積極的に行動するのが重要なのです。  (p28)

「リアル世界で積極的に行動するのが重要なのです」というところがかんじんなのかもしれない。

ウェブが「人生を切り開いていくための強力な道具」となるための第一の柱が「ウェブで学ぶ」可能性。第二の柱が『師』や『同志』と出会えるような「志向性の共同体」の可能性。そして第三の柱が「職を得る、生計を立てる」道筋へとつながる可能性。
これら三つの柱は、「自助の精神」に溢れる個人にとっての「人生のインフラ」とでも呼べるべきものだと思います。  (p29)

第三の柱がまだまだ整備されてないと思う。この三つの柱がすべて揃えばすばらしい社会になっていくだろう。

そしてそれは、「知と情報のゲーム」の牽引力となっている信念が、欧米の「表現の自由」「学問の自由」「教育を受ける権利」といった人権思想や民主主義思想、特にアメリカ建国以来の思想を強く踏まえてのものだからです。普通を身にまとってはいても、この信念は欧米近代以来のイデオロギーそのものと言えます。ですから、「知と情報のゲーム」については、アメリカで起きることは『時間遅れ』で他の国々でも起こるだろう」という仮説から離れなければならないと、いまは考えるようになりました。  (p33)

このへんは今までと違う意見をのべている。必ずしも時間遅れで日本でも起こるということではないようだ。しかしアメリカ建国以来の思想とはすばらしいものだと思う。

「いま世界は(以前とは)まったく違う。それは、君たち一人ひとりが世界中のどんなことについても『情報を得る力』を持ったからだ。私が学校に通っていた頃と、本当にまったく違う世界だ」  (p37)

グーグル創業者サーゲイ・ブリンの言葉である。以前とは確かに違う。

この「互助精神」「フロンティア精神」が、アメリカ文化の中核的なものだとすると、世界がグローバル化していく中で、おそらくこの精神も、同時に世界に広がりつつあるのだと思います。特にウェブを通して。それが、教育の世界では顕著に現れてきています。  (p96〜97)

教育の世界だけではなく他の分野でも広がってもらいたいものだ。

オープンエデュケーションは独善的?
梅田  お住まいになられた様々の地域の違いを超越して存在する「アメリカ的な主義・思想」の根幹は何だと感じていっらっしゃいますか。(中略)
「誰もがオープンエデユケーションが万能なんて絶対なんて言っていないのだから、もしそれが自分の主義・信条にあわない、役に立たないと思う人がいれば、攻撃せずに構わないでくれればいい。」。僕も、それでいいのではないかと思います。  (p105〜108)

この中で「どんな境遇にあっても失われない楽観主義」「失敗を恐れぬチャレンジ精神」「そして家族や友人だけでなく他人や見知らぬ人に対しても親切に助けの手を差し伸べようとする互助精神」「役に立つ者やアイディアを尊重するプラグマティズム実用主義)」。これがアメリカ的な主義・思想である、と飯吉さんが述べている。私の好きな主義・思想である。

ネットというものはそもそも「巨大な強者」よりも「小さな弱者」と親和性の高い技術で、特に意欲はあるけれど「持たざる」という人たちにとってはとてつもない威力発揮します。  (p137〜138)

ネットを活用しないことは損をすることだろうか。

とにかく重要なのは、ただ勉強しているとか、ただ考えているとかではなくて、何でもいいから実践的なプロジェクトに関わって、人とつながっていくことなのだと思います。「in the right place at the right time」という言葉があります。「正しい時に正しい場所にいること」こと。僕はこれが人生の極意だと、シリコンバレーで学んだのですが、この「正しい場所」というのは、実践を伴うコミュニティである場合が多いと思います。
大天才を除くほとんどの人は、運や巡り合いによって人生が転がっていくものですが、運や偶然をつかむ秘訣とは、誰かの心に印象を残して、大切な時に誘われる能力だと、僕は思っているんです。それを自然にできる場所が、実践を伴うコミュニティなのだと思います。だからそれが職場であれば理想ですが、それが叶わない時はプロボノ活動も良いと思います。  (p209〜210)

とても参考になる部分であると思う。
久しぶりに梅田さんの著書を読んだわけだが、以前と変化してきた部分と変わっていないところとが混在していたように感じる。

ウェブで学ぶ ――オープンエデュケーションと知の革命 (ちくま新書)

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